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事実と真実

2005年11月20日

サンパウロ在住 美代賢志

 11月7日に行われた南米地方行政視察団と日系諸団体との意見交換会をめぐる報道で、ブラジルの2紙ある日本語新聞の報道が、正反対なものになっている。南米地方行政視察団の態度に対して、サンパウロ新聞(と通信社等日本のマスコミ)が批判的な報道を行った一方で、ニッケイ新聞は「(批判している記事内容は)コロニアと見解が違う。これからの日本との関係を考えれば大迷惑」というブラジル日本都道府県人会連合会(県連)会長の言葉を引用しつつ、これを批判している。さらに「オーリャ」という署名入り記事でも、「疑問の声を誰が上げているのか―、はっきりさせるべき部分だろう」と、名指しこそしていないものの、サンパウロ新聞の煽り記事であるという見方を示している。

 一般論から言えば、時間に遅れてのうのうとやって来た挙句、居眠りに雑談、意見交換を途中で切り上げてしまった南米地方行政視察団を批判するサ紙の報道は正論。対するニッケイ紙の記事は、当事者である県人会関係者が気分を害したというのを否定しているコメント意外に何もなくて、説得力がゼロである。まぁ、「オーリャ」を読んでお分かりのとおり、「母県からの協力あっての県人会だけに今回の騒ぎは痛い。百周年を控えたコロニアにとって大きなデメリットになるのも懸念されるところだ」という部分での、所詮は県人会(あるいは日系社会)サイドに立った提灯記事でしかない。

 なぁんてことを書くと、「おいおい、関係者がそう言ってるんだから、ほかにどんな記事が書けようか?」と、ニッケイ紙からお叱りを受けるかもしれない。もちろん、そういうお叱りへの答えは、「サンパウロ新聞を読みなさい」ということ。ついでにニッケイ紙には、「関係者の発言をそのまま載せるなら、記者様は不要じゃございませんか?」と質問をしてみたいものだ。こういう「記事」を報道と称するなら、それは自慰行為以外のなんでもない。私の先輩記者に、「所詮は発表記事になるのですから、そのまま掲載できるように報道資料を書いて下さい」と、取材先にお願いしたとんでもない人がいるが、つまりはそれと同じこと。私の先輩とニッケイ紙の記者の違いは、単なる発表記事ということを理解しているかどうかという部分だ。記者にはプライドがあろうが、読者からすればどちらも発表記事である。近頃のニッケイ新聞は、NHK問題といい、こうした「受け売りそのまんまの報道」が多すぎる。

 もちろん、「じゃぁ、ニッケイ紙は嘘を書いたのか?」ということになると、そりゃぁ「書かれた内容は事実」だ。当事者がそう言っているという部分に限って。そして、サ紙が報じたのも事実。ただし記事で書かれた事実が、必ずしも真実じゃないということ。

 結局、この一件は壮大なマッチポンプだったのではないだろうか、というのが私の見方である。

 日本側から忘れられないように(つまりは日本からより多くの支援金がやってくるように)、県人会長あたりがチクリとやってみせてサンパウロ新聞の記者に書かせた。ところが通信社が配信して日本で話題になるなどお灸が強すぎたので、今度は火消しに回った。うまく元の鞘に収める役を県人会がやることで、日本の母県に対する発言力も強まる。こうして、県人会は母県にお金を無心しやすくなる。

 だいたい、本当にブラジル側の関係者から反感を買っていないのなら、日本で報道された時点でリアクションするんじゃなくて、サンパウロ新聞が報じた時点で訂正記事の掲載を申し入れるはず。そうしなかったのは、つまりはそれもまた真実だったからじゃないのか? 県人会側がサンパウロ新聞に書かせたということがなかったとしても、サンパウロ新聞が勝手に書いた記事を読んで、県人会長が当初はニタ笑いしていたという筋もありそうだ。ニッケイ紙によれば、中沢会長は「遅れるのは予想できたから」とか言ってるらしいが、案内役の旅行代理店関係者からでも、連絡があってもよかったはずだ(もしかすると、議員の旅程調整を失敗したのは、ニッケイ紙の関係する旅行代理店だったっのか?? まさかな…笑)。しかも、「日本人だから、靴を脱いでもなんとも思わなかった」に至っては、この人たちには「場所柄をわきまえるという発想がないのか?」と思ってしまう。そういう人が、議員や県人会長をやって、しかも国際化に関して意見交換をしているということの恐ろしさ。

 日本の議員に怒りを覚えるよりも、私はブラジルの日系社会(コミュニティーじゃなく)の乞食根性を情けなく思う。もっともこれは日本で蔓延る地方への利益誘導型政治と無関係ではない。ブラジルの日本人(日系人)特有のものではなくて、明治以降の日本人に染み付いたものだとも言える。それにしても、どうしてそこまで卑屈になれるのだろうか? そういえばニッケイ紙には、横領公務員を賞賛したという前科もあった。こういう体質は、自分の道を自分で選んできた「自由人」である移民にも、すっかり浸透しているということなのだろうか?

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