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邦字新聞応援歌 仮想敵を探せ!
2002年7月18日
サンパウロ市在住 美代賢志

 前回のコラムで、その日本語新聞の記者からメールが来た。次は何編になるのか、「無頼編か青春編か」という。そう思って見回すと、日本語新聞社という癖のあるイメージに反して(これって偏見?)、これ!というほどの奇人や変人がいない気もする。

 そこで今回は、別の切り口から見てみよう。(と書きつつも、内輪ネタなので気が引けるのですが)

 ブラジルにおける日本語新聞は戦後、いくつかの仮想敵を設定しながら変遷してきた。仮想敵を相手に読者は団結し、高揚してきたのである。

 戦後に日本語新聞が解禁となってしばらくは、領事館など政府関係者が標的となった。第2次大戦において移民は、いわば「ブラジルに置いてけぼり」をくらった立場であり、政府関係者が何かと「お高くとまっている」というのが鼻につくという気分を反映していた。日本から来たこうした役人が、いかにブラジルの文化や生活に無知であるかを、失敗談を中心に書き綴る。失敗談といっても、明らかに揚げ足とり、という記事も多かった。

 これに続いて標的となったのが、進出企業の駐在員である。というのも、今に至るも多くの領事がそうであるように、着任早々から「庶民的な感覚」と「移民への配慮」をもって新聞記者に接するようになったからだ。現在の領事は、ちょっとしたイベントにも顔を出す「優等生」なのである。もちろん、移民のイベントを通して日本への理解を進めてもらうという外交カードを否定する気は毛頭ない。一方の駐在員は反対に、ブラジルの好景気と相まって鼻息が荒かった。移民に言わせれば、「進出企業の今日があるのは、移民がその下地を築いたおかげ」であるから頭が高い!ということになる。それに「ドル族」として札びらを切る駐在員の態度が気に入らないのである。もちろん、こんな移民の意見(というか駐在員像)は、一部には聞くべきものがあったにせよ、ほとんどヒガミだったろう。駐在員は移民との交流のために来ているのではないのだから。

 ところが、進出企業に対する八つ当たり的な攻撃も、私が来た94年半ば頃にはすでに終わっていた。移民が高齢化して姿を消す一方で、駐在員が読者として台頭してきたのである。そして何より、これら企業は貴重な広告主となっていた。

 では、現在の仮想敵は何であろうか。それは日本の日本人である。「閉鎖的」な彼らは、「苦労した移民の子弟(つまりデカセギのブラジル人)に冷淡で無理解」な島国根性丸出し人間である。「君たち、移民(イコール国際人)の声を、少しは聞いたらどうだね!」

 そしてもうひとつ、「ブラジル(海外)に住んでこそ、国際化が理解できる。移民はもちろん、領事だって駐在員だって、この国にいるからこそ国際化の何たるかを知っているのだ。日本の日本人、頭が高い!」という理由付けができるのも便利だろう。これで、広告やニュースソースなど利害が絡む人たちとは大団円。外国に少しでも住んだことのある人なら同意していただけると思うけれども、こんな意見はもちろんウソである。日本から出なくても、いくらでも(その気さえあれば)国際交流はできる。

 こうした流れの中で見る時、外務省の横領がらみで2001年にサンパウロ総領事館の領事が懲戒免職となった際の記事は、ニッケイ新聞とサンパウロ新聞、ともに好意的な記事であったのが納得できる。ニッケイ紙などは、(横領した金で購入したであろう)輸入物のワインやパスタをご馳走してくれた人当たりの良い領事だっただのと褒めまくり、それは「横領した金を移民社会の一員である記者のために使ってくれたのだから、結果的には移民社会(イコール国際社会)のためになった。わずか(でもないですが)な金のことで、国際交流に尽くす人のことをとやかく批判するな」と言っているがごとくであった。

 この仮想敵を作り出す下地となっているのが、インターネットの存在だ。従来なら、購読者になるどころか新聞社の存在すら知らなかったはずの日本人が、日本にいながらこうした日本語新聞を読んでいるのである。そうして購読者であるブラジルの移民と日本人、広告主である進出企業を傷つけることなく、仮想敵を設定して高揚できる。けれども、仮想敵の対象となっている人たちが本当に存在するとすれば、彼らはブラジルで発行される日本語新聞なんかに興味を持つことはない。結果的には記事への反論もないわけで、記者としては「一方的な勝ち」の状態で連戦連勝気分も味わえる。

 しかし…とすれば仮想敵はともかくも、本当の敵は報道する側自身だ。

 少なくとも私は、購読料を払うなら報道記事を読みたい。「移民万歳、デカセギ万歳」のヒューマンストーリーが決め技という現在のスタイルは、紙売りを足がかりにしてインターネットに活路を見出そうとしている(かも知れない)日本語新聞にとっても命取りにならないだろうか。インターネットの世界がプロとアマ、企業も個人も参加できるVale Tudoのリングだとすれば、そこは本来、プロフェッショナルなブラジル報道を見せつける格好の舞台であるはずだ。

 新聞社で働く先輩・後輩の皆様に敬意を込めて、「期待しております」

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