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以心伝心

2005年4月13日

サンパウロ在住 美代賢志

 夕方ごろにリベルダーデを歩いていると、「お薦めの日本料理店を教えて!」と、ブラジル人から声をかけられることが良くある。

「好みの料理は?」

「食べたことが無いから分からない。ここで日本食が食べられると聞いて、来てみたんだけど」

 旅行でやってきたのかもしれない。こんな場合は、安くてメニューにバラエティーがあって、ポルトガル語で気楽に店員に質問できるお店をいくつか紹介することにしている。それにピッタリとはまる店を選ぶのが、難しい。というのも、日本料理を囲んだ楽しい思い出をきっかけに、日本ファンになって欲しいから。

 もう、1年ほども前になるけれども、リベルダーデ区のとある料理店での出来事。

 この料理店は駐在員にも人気である。逆にいえば、メニューなどがすべて日本語表記になっているために、ブラジル人が滅多なことでは足を踏み入れないお店。

 そのお店に、ブラジル人のカップルがやって来た。カウンターに座って、ビールを頼んだっきり。周囲が日本人だらけなので、ちょっとバツが悪そうであった。この日の私は同じくカウンターに座って、2世の日系人と、ちょっとした仕事の打ち合わせをしていた。

 と、その相方が、ブラジル人カップルに話し掛けた。

「ねぇねぇ、どんな日本料理が好きなの? 魚? お肉? ご飯もの? それとも麺類?」

「実は、日本食ってあんまり知らないんだよね。寿司とか刺身、焼きそばぐらい…」

 このカップルはその日、彼女の誕生日か何かの記念に、「普段とは違った日本料理を食べよう!」と、この店に足を運んだそうである。その後、ひと通りメニューの説明を聞いて、アレコレと注文していた。そして、「どうもありがとう。今夜は、本当に良い記念になりました」と、相方に御礼を言って出て行った。日本ファンになってくれたら良いけど。でもたぶん、日本(料理)ファンになったとしても、このカップルがこのレストランに再び足を踏み入れることは無いだろうな。

 私はその時、以心伝心ってこういうことを言うのだな、と思った。つまり、「俺の目を見て察してくれ」というのではなく、「相手の置かれている立場を見て相手の気持ちを察しようとする姿勢」のこと。

 このレストランがブラジル人の入店を(明確な言葉ではなく雰囲気として)拒否するのは経営上の戦略(かつ法律的問題)なので責める気は無いし、日本人の客だって「ブラジル人がいないところで心安く(何の安心かは知らないが)日本食を食べることができる店」に来ているのだから。ただしこの以心伝心は、「皆まで言わせるな。俺の目を見て察してくれ」という立場。つまり、「言葉で言っちゃうと法律に触れる。だから口では言えないけれど、君たちに来店してもらいたくないのは分かるだろ?」ってこと。

 相手に「察することを求める」というのは、何も日本に限ったことではない。ブラジル人の間にだって、ごく普通である。けれども、説明しかねるものを言外に理解しろというケースは、ちょっと特殊じゃないかと思う。「エライ人はエライ」というヒエラルキーに支配されている一部の日本人同士の会話ならともかく、国際交流の世界だと、「日本人って何を考えているか分からない」という苛立ちを相手に与えるに違いない。それは、日本ファンの卵たちを、孵化させることなく潰す行為ではなかろうか? 以心伝心が悪いのではなくて、その使い方を間違えていることが悪いのだと思う。ま、一部の人たちは、「そのヒエラルキーを受け入れて日本人に追従してくれる人だけどうぞ」という考えなんだろうけど。

 大西宏さんが「日中関係の粋なソリューション」と題した文章の中で「日本のファン」という言葉を使っているのに触発されて、思いついたことを書いてみた。「日本ファン」という言葉は私もずいぶん使っているし、交流に対する発想が、同じ関西人として似ているというのも面白い。

 あと、以心伝心じゃなくて、きちんと説明する事の大切さは、すでに書いてあるので参考にどうぞ。

ずいぶん昔に撮影した東洋市のたこ焼き屋。説明はなかなか粋。
(たこ焼きマンも参考にどうぞ!って、この大きさだと読めないか)
でも1個1レアル以上ってすごい値段だなぁ。ビールと炭酸飲料が同じ値段。

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