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あの頃といえば… |
2004年1月20日 |
サンパウロ在住 美代賢志 |
先日、道端でばったりTさんに出合った。
私が翻訳に親しむきっかけを作ってくれた方で、もうそろそろ70歳近いのだが、会話の暴走は相変わらずの健勝ぶり。現在は、サンパウロ新聞で艶筆!を振るっておられる。
「おおぉぉぉお、久しぶりだねぇ。元気にしてるかね。あ、赤ちゃんが生まれたんだったね。かわいいねぇ。名前はなんて言うの?」
「カレンってつけました。漢字は、中華の華に蓮(はす)の蓮で。蓮根の蓮です」
「カレーか。君は好きだったもんなぁ…」
「…」
いや、確かに「美代といえばカレー」という時代があった。独身時代、薄給の身に優しい料理、つまり日持ちのする(手間のかからない)安い料理はカレーだった。編集部の独身おじさん(Tさんもいまだ独身貴族)から資金をカンパし、大量に作って分配すれば、ずいぶん安上がりだった。2週間に1回は作っていた気がする。当時は、日本製のカレールーに肉代(1kg)を入れても総額10レアルそこそこ、15レアルもあれば充分(ただしガス台と人件費は除く)贅沢なカレーができあがった。いやはや、お世話になりました。
しかし、いくらカレーに足を向けて(ってどの方向?)寝ることのできない身だからとて、子供の名前に「カレー」なんてつけるだろうか?普通。あるいはブラジルでは普通なのだろうか? 日本食好きの夫婦の子供がスシちゃんとかつけるだろうか? あ、日本にはイクラちゃんとかカツオくんとかいましたけれど。で、ブラジルの大統領はイカちゃんだが、このイキサツは、料理好きだったから、というのとはちょっと違う。というわけで、色々と雑談を交えながら、やっとこさ理解していただいたのだった。
「あぁ、日本語の名前ぇ。なるほど」
ちなみにTさんは、米粒に極細ペンで名前を書くというバラックのおじさんの技に見とれていた。その米粒を小さなカプセルに入れてネックレスにしてくれる。
「いやぁ、ぼくも名前を書いてもらおうかと思って…」
などと言っているのだが、たぶん意中の女性(たって恐らく10代)にプレゼントするのだろう。何となくジメジメする今年の夏だが、Tさんだけは元気なようである。
どことなく秋空、なこの頃 |
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