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サンパウロ点描 「ある男」 |
2004年7月4日 |
サンパウロ在住 美代賢志 |
「彼はね、若い頃はそりゃもう、羽振りが良かったなんてもんじゃなかったさ…」
と、初老の、そして独身のその男を知る女性は言う。
宝くじで儲け、ばくち場に入り浸る毎日。オープンカーに何人もの女性をはべらせて、街に繰り出す毎日。
そして、ブラジル経済の奇跡的発展が終了するのと同時に、彼の黄金時代も終わりを迎えた。今、彼の質素な家のベランダから俯瞰すると、同じように質素なつくりの家が連なっている。
部屋のラジオから、サッカーの実況が流れてきた。彼の贔屓は、サントスFCだったか。
普段着の革靴が放つ柔らかな光は、そんな彼の往時のプライドのようにも見えるのだった。
ここから上がる丘もなく、また丘を降りても居場所はない |
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