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安コネクションに気をつけろ!

2003年5月15日

サンパウロ在住 美代賢志

 ブラジルで暮らしていると、「安コネクション」と呼べるものが存在することに気づく。

 もちろん、中国マフィアの安(アン)さんのコネクションではなく、安物の安(やす)コネクションである。今、勝手に作ったのであるが。

 安コネクションの人たちは、「とにかく安上がり」というのを第一義に活動する。支出削減こそ、会社の利益を最大化する最良の手段と確信している。そして、考えを同じくする経営者に対して、「安い」ということを最大の武器として営業する。だから、常に安コネクション同士が集まる。その様子はまるで何か、互いにオーラを感じているがごとく。結果として、安コネクションというマーケット全体が、払いも少ないが貰いも少ない世界になる。しかし彼らは、そんなことには頓着しない。

 安コネクションのもうひとつの特長は、本業の能力が突出しているわけではなく、また本業を極めるでもなく、「ほどほど」を旨としていることだ。安いんだから質は求めるな、と言うがごとく。いや、正確には「とにかく安くをモットーにしていますぜ、ダンナ!」ということだろう。質なんて考えたことがないのだ。

 実はここ数日(すでに1週間以上)、ダイアルアップの毎日なのだ。ピーヒョロロとモデムの音を聞くのも物悲しいが、それ以上に思うのは、遅々として進まないサーバーの復旧作業である。これは私が片足を突っ込んでいる事務所のことなのだが、その様子を見ていると、ふと安コネクションということが脳裏に浮かんだ。

 ある程度の金額を支払ってでも迅速に復旧させるのが普通の経営者の考えだと思う。その妥当な金額とはつまり、

復旧までの時間×時間あたりに会社が生産する価値

 が、基準になると思う。例えば、1日あたり80レアルの給料の従業員が仕事を休んで復旧作業を試みるとなれば、1時間で復旧したとしても10レアル分(8時間労働で)の仕事を放棄していることになる。これを製品価値(会社の生産する価値)に直してみよう。先進諸国では通常、給料の10倍の価値を生産をしていると言われるそうだから、1時間で100レアル、2時間なら200レアルだ。つまり、正常な企業体であれば、それだけのお金を払って専門家に来てもらったとしても「割に合う」のである。もちろん実際には、普通レベルの技術者に頼めばもっと安いはず。

 ところが、安コネクションの人はそう考えない。まず最初の1日は、大切な就労時間を割いて自分でいじってみる。普通の人なら、ある程度のパソコンの知識はあるものだ。これで直れば、「良かった。安くて済んだ」となる。もちろん、その間のトータルな損失を計算しないから、それが安いと言えてしまう。それで駄目だと、適当なところから(もちろんお金が余りかからなそうな)人を呼んでくる。友達の友達とか、そんなつながりである。だからこの人も安コネクションなわけで、ホドホドの仕事しかしない。難しいことになると、散々じらした挙句、「それは俺にはわからない」などと放り投げるのだ。そこでまた、もう少しグレードの上の技術者を連れてくる。この繰り返し。最後はどこかで誰か、解決できる人が見つかる。少しずつグレードを上げてゆくので、時間はかかるが支払う金額は少ない。最終的に解決できた人、それも解決するだけの技術のあった最低ランクの人にしか報酬を払わないのだから。

 しかしそれではまるで、業務の遂行は成り行き次第だ、と言わんばかりではないか。自宅のコンピュータならその態度も理解できるが、こっちは客商売ということを分かっているのだろうか?

 今回の場合、所長が連れて来た技術者は、忙しいということで時々やって来ては、サーバーにウィルスがあると言ってノートンの画面を眺めている。ハタから見ていても、「ホンマに知ってるのかいな?」という雰囲気。交渉の最初の段階の定石通り、最低の部類である。私が、「LANは問題なく接続されているし、サーバーだけはインターネットに接続できる。問題はサーバーの設定だろう。プロキシじゃないのか?」と言っても、「いや、ウィルスでやられている。再インストールしなきゃ駄目だ」とか、「新しいコンピュータを買った方がいい」などと言う。ダラダラ仕事をしながら相手をじらせて、コンピュータを売りつけようという算段だろうか。

 そうまでなると他人事ながらも心配になり、以前世話になっていた技術者の電話番号を渡した。仕事が迅速で知識があるが、何せ報酬が高額(たぶん)。しかし、事務所の仕事に支障をきたしているのだから、それぐらい安いものだと考えたのだ。ところが、お金をかけたくないとのことで、今までどおりの技術者にノートンの画面を眺めさせ続けさせることを決定。週末には、「コンピュータに詳しいという知り合いの技術者」を連れて来て見てもらったそうだ。もっとも、「作業しているうちに(午後)6時になったので打ち切った」という。ホンマにプロなら、時間じゃなく仕事の結果で勝負してくれ、と言いたくなる。

「あのおっさん、ホンマは何も知らんのとちゃいますか?」

「いや、分かっていると言ってる。プロキシとかそんなことじゃなく、ウィルスがファイルを壊しているんだそうだ」

 つまりそこには、技術者を評価する基準もないのである。普通、コンピュータ(実際はインターネットの共有)の復旧に1週間以上もかかれば、コンピュータ以外の、つまり人的資源に問題があるとの疑問を抱くはず。あるいは、それを踏まえて保険的プランを平行して走らせておくなどの対策をとるとか。

 私の場合はコストの観点から自分の持ち場でないことは、知っていても技術者にやらせるという考えである。最終的に誰かに頼む可能性があるなら、最初から頼む。ただし私のコンピュータは日本語なのだが、相手がブラジル人だろうと私が一切の操作をしないのを条件とする(もちろん、訳はします)。なぜって、私が本来の仕事に専念するために依頼するのだから。

 …などと日ごろのポリシーは持っていても、さすがに気がかりで調べてみた。何しろ、技術者を呼びに行ったりして(忙しいなどとほざいて、引っ張ってこなければやって来ないので)、所長の仕事率(時間)が半分ぐらいになっているのだ。それも1週間以上。つまり、事務所としてはものすごい額の損失を出していることになる。まぁ、それは他人事なのだが。

 そこでインターネットで調べてみると…。やっぱりあった。1台しか接続が認められていないADSLなどのインターネット接続をLANで接続された複数のパソコンでも接続できるようにするには、インターネット接続の共有をサーバーで設定しろ、とある。そこでポルトガル語ウィンドウズのサーバーを見てみると…。

「共有するようになってないじゃん」

「何それ? あ〜、そう。そうなんだ。そりゃ駄目だよね。これは基本だ」

「それで、なんでやってないわけ? これが、俺が聞いてたプロキシの設定ってことなんじゃないの? 俺もよく知らないけどさ。なんで設定してなかったわけ?」

「いや、最大の原因はウィルスなんだ」

「でも、これを設定してなきゃ、ウィルスを駆除したって繋がらないだろ? サーバーにウィルスがあっても、とりあえずほかのコンピュータでインターネットに接続できりゃいいんだから。ファイルも共有してないんだし」

「あ、俺、ちょっと急ぎの仕事があるから、一度戻って後から来るよ」

 そう言ってその技術者は、アタフタと逃げ帰って行ったのだった。美味い儲け話を失ったというわけか? それなら、もう少しまっとうに仕事をしていれば収入になったものを。トータルでコストを考えるということができないのだろうか、安コネクションの人々は…。

 この事例から分かるように、「お安うしときまっせ」というだけが売りの安コネクションが正常な経済構造に紛れ込むと、思わぬコスト上昇を招く。これを経済界の人たちは、「ブラジルコスト」と呼んでいる(のだと思う)。

 かように危険な安コネクション。読者の皆様も、くれぐれもご注意ください。それにしても、駐在員の方々は毎日のように、こんな安コネクションと戦ってんだろうなぁ。

  ちなみに、サーバーがおかしくなって自身による復旧を断念した際の所長の台詞は…

「誰か、安うやってくれる技術者知らん?」

 適価を払え、適価を。それが安コネクションに組み込まれない唯一の方法だぞ。

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