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猿を貸してください |
2003年2月13 日 |
サンパウロ在住 美代賢志 |
「レフトは左、ライトは右っちゅう意味や」
その昔、野球少年になりかけの頃、そう言われた。
「ふぅん。で、どっちが右でどっちが左?」
…爆笑。
私が訊きたかったのは、「誰から見て右左なのか」ということであった。キャッチャーの左右とピッチャーの左右では、それこそ全く逆になる。以来、野球少年になることなく成長してしまった。中学時代のソフトボール大会では、毎年冷や冷や。何しろ、「レフトを守れって言われても、どこ?なんて、もはや恥ずかしくて聞けない…。受け持ちがサードでよかったよ!」という状態。 その前の小学生の終わりの頃、ヘッドフォンには左右があるということを知った。
「どっちが右でどっちが左?」
「英語で、左をレフトと言うんや。だからLが左。それでライトのRが右」という。
「でも、レもラもローマ字で書くとどっちもRなのになぁ。ローマ人とアメリカ人は違うのか?」
…爆笑。
ガイジンさん(といってもその当時、脳裏に浮かぶガイジンさんはイコール、アメリカ人だったのだが)にとっては、La、Li、Lu、Le、LoとRa、Ri、Ru、Re、Roは違うものだという。でも実際、ガイジンさんはそんなにシビアに気にするのだろうか? だいたい、俺には違いがわかんねぇよ!と、当時は思ったものでした。これに関してはブラジルでは、よくLaranja(オレンジ)の発音させて練習させる。まあ、普通程度には気にするようだ。
だけど、それ以前にもっと大切なものがある。例えばブラ子さんは、「エウ(私)はネ、ビアジャール(旅行する)・ジャポン(日本)だったの」なんて感じでブラ妻と会話する。「一生懸命話しかけてくれて、ブラ子さんはやさしいねえ」というのがブラ妻の感想。これに答えて、「カゾクノォ、ニホン、ゲンキ?」などと言うのであった。単語の並びがポルトガル式だけど、何が言いたいかは分かる。
つまり、伝える気持ちとそれを理解しようとする気持ち。
そう言えば出稼ぎで、こんなエピソードを持つ人がいる。車で小旅行に出かけたところ、運悪くパンクした。ところが、ちょうどそこはガソリンスタンドの前。やれやれ、不幸中の幸いだよ。
「おい、お前、日本語話せるだろ?」
「そりゃそうだけど。でも、マカコ(猿の意味)って日本語でなんて言うのかな? やっぱり、サルか?」
「俺が知るか!」
「どうかされました?」
「エット、アノ…、サル、サルヲカシテクダサイ!」
「さ、猿ぅ?」
「ハイ。サルデス」
「ここ、ガソリンスタンドなんですが…(爆笑)」
確かに、彼が借りたかったのは「猿」だった。ただしカタカナ語で、「モンキー(レンチ)」という。その後、何とか意味が通じて、モンキーを借りることができた。タイヤの交換が終わった後、今度は日本人とブラジル人の双方が大笑いしたそうな。「だけど、こんな恥ずかしい体験はコリゴリだね」
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