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ブラジルにも武士道を

2003年1月24日

サンパウロ在住 美代賢志

「無礼者! 名を名乗れ!」

 という台詞は、時代劇の定番ではなかろうか。知らぬ間に、「日本人なら当たり前」の文化になっている。ところがブラジルでは、これがまったく逆である。

 チリリリリーンと電話が鳴って受話器を取ると…

「誰?」

「へ?」

「あんた、誰?」

「うむ…私は当サイト管理人じゃ!」

「…ガチャ」

 おいおい、間違い電話なら謝るとか…。せめて名を名乗れ! と、ツーツー鳴っている受話器に空しく叫んだ経験、ブラジルで生活したことのある日本人なら、誰でも経験したことがあるはず。ポルトガル語の苦手だったころは、なおさら悔しかった。

 近頃は、こんな風に変化した。

「誰?」

「どなたとお話になりたいのでしょうか?」

「だから、あんた誰?」

「何処に電話をおかけになられたか、分からないのですか?」

「そちらは○○の自宅じゃないの?」

「違います」

「そちらの電話番号は何番ですか?」

「何番におかけになられましたか?」

「○○○-○○○○じゃないですか?」

「違います」

「あ、そう。ごめんね」

「いえいえ」 ガチャリ。

 教育的意味合いを込めて、少しばかり嫌味な応対になっている。こちらの電話番号を教えないのは、こちらの電話番号のコピー回線を作らせないため。身に覚えのない請求書や、使用量に見合わない高額の請求書が届いた方は、気をつけましょう(いや、請求書が来てからでは遅いのかな?)

 どういう理由で、ブラジルの通話エチケットがこのような不届きなシステムになったのか分からない。あえて理由を探せば、例えば企業であっても、ブラジルの電話交換手はいい加減なので、本当に相手につながっているかどうか分からないからかもしれない。だいたい、内線電話も数人が共用している(これは日本の企業でも同じなのかな?)。

 ○○さんお願いします、といってお願いした内線が、全然別の部署に回ることもある。ヘッドハンティングの電話だったら、そりゃもう大変(らしき経験あり)。仕事じゃなくても、愛人からの電話だって困る(こちらは経験なし)

 という訳で、とくに会社のエライさんから電話がかかってくると、こちらが待たされる。

「サイト管理人さんですか?」

「はい」

「こちらは貴卑談語です。今、社長のブラ吉に代わりますので少々お待ちください」

「はぁ…」

 この方法は、待たせる立場になる進出企業の方々なども、着任早々は面食らうそうである。そりゃそうだ。自分から電話をかけておいて、「お待たせしました」なんて言うのも変だ。かと言って、何も無かったようにイキナリ会話を始めるのも、慣れるまでは違和感がある。

 ま、それなりの教育(というか文化)水準にあるブラジル人は、日本風の電話のかけ方をしていたりするけれど、かなり少数派と思って間違いない。

「ブラジル人! ええーい、名を名乗れぇーい!」

 ブラジル人向け時代劇、何とかならんものか。

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