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「合理化は良いこと」か?
2002年9月25日
サンパウロ市在住 美代賢志

 個人的には、合理化(というか省力化)というのは大好きだ。何しろ、生来のナマケモノである。しかし趣味ともなれば、話は別。

 こんな趣味と合理化について書いてみたのは、先日、妻の淹れたコーヒーを始めて飲んだのがきっかけ。妻は、コーヒーが嫌いで飲んだことがないというブラジル人である。「今まで、コーヒーなんて興味もなかったのに。いったい、どないしたんや?」

 聞いてみれば、わが家に遊びに来ているオトーサンのためだという。「やっぱり、俺のためじゃなかったか!」とは思ったが、これで美味しいコーヒーが手軽に飲めるようになれば儲けものである。まぁ、せいぜいおだてることにしよう。ところが、その作り方を傍から見ていて仰天であった。

 水を薬缶に入れ、砂糖を加えてガス台に。

「あのなぁ、砂糖を入れて飲むにしても、コーヒーを抽出する前に入れてどないすんのや?」

「でも、最後は砂糖を入れて飲むでしょ。同じことじゃない?」

 確かに、コーヒーを摘出する前に砂糖を加えれば、コーヒー嫌いの妻でも砂糖の濃さは味見して判断できよう。しかし、そんなところで合理化して、どないするんや…。そもそも、合理化するならコーヒーと砂糖の比率を決めればエエことじゃないのか? これなら、一度決まれば、後は何の心配もないはずだ。カメラのマニュアル露出と同じ。ところがブラ妻は、

「でも、美味しかったらいいんでしょ」

 とまで言い張るのであった。美味しいと思っとるのか? このやり方で? コーヒーを飲まない者がコーヒーを淹れると、これだから困る。カメラの設計者やデザイナーにも、カメラが趣味でない人が増えているという。そんな人たちが設計・デザインしたカメラが、趣味のカメラとして面白いはずがない。それと同じだぞ、コーヒー嫌いのブラジル人め。

 私のカメラ遍歴は、大学時代に遡る。というか、興味を持ったのは、その前の浪人時代。

 当時のお気に入りの雑誌に「本の雑誌」というのがあった。そこに時々、ニコンの広告が掲載されていたのが、カメラを身近に感じたきっかけである。広告は、当時の最高級機ニコンF4。デザイン以上に、20万円近い価格はインパクトがあった。「カメラというのは1家に1台あれば良いほうと思っていたけど、今どきのカメラはずっと身近なんだなぁ」という感想であった。

 そしてメデタク大学にもぐりこみ、「現代的」デザインのカメラに出会った。先輩所有のミノルタα-7700i。ごっついグリップに斜めに配置された液晶、こじんまりしたペンタ部のデザインに唸った。聞けば、ハンス・ムートっちゅう、スズキのKatanaというバイクをデザインしたドイツ人デザイナーの手になるものだという。天晴れ。現在でも、なかなか個性的なデザインだと思う。何より、当時はシャッター・ダイアルのない一眼レフが存在していようとは思いもしなかったので、ものすごく新鮮であった。それに価格が、驚くほど安い。「ニコンの3分の1じゃないか!」と、またしても唸った。ミノルタが安いのではなく、実はプロ用のニコンのF4が「高額商品」だったのだが、当時はそんなことすら知らないシロウト。そして、これとほぼ同様のデザインで後継機種ともいえるα-8700iが発売されているというので、それを購入した。

 今にして思えば、これほど使いにくいカメラ(私の使い方において)もなかったが、「結果(写った写真)が同じなら、手間が省ける自動化をフルに利用したほうが便利」という心境だった。しかしすぐに、「趣味というのは結果を求めるのではなく、過程を楽しむものだ」ということに気づかされた。技術者の立場から合理的に設計されて生み出された商品というのは、概してつまらない。ユーザーの立場から合理的であるべきだ。

 その後はレンズも揃えてしまったこともあり、その時代ですら化石となっていたα-9000を入手する。これは手動巻き上げの小型軽量モデルで、ウエストバッグに放り込むこともできる。この点は、ブラジルのような国で利用するには非常に便利。しかも、必要とあらばモータードライブまで装着できる。オートフォーカス(AF)はびっくりするほど遅いが、そもそもAFは使わないので構わない。この点、最新機種よりも使い勝手は良好だった。何より、コマンドレバーなどが使いやすい位置(指掛かりの良い位置)にないため、設定した露出が知らず知らずに変更されることもない。「一見使いにくそうなデザイン」であったが、ユーザー側から見れば実に合理的な設計であった。

 さて、前述のコーヒーに話を戻すと、この方法は何と、オトーサンに教えてもらった淹れ方であるという。実際、オトーサンは美味しいと言って飲んでいる。しかも、私が気合を入れて淹れたコーヒーよりも美味いとまで、笑顔でぬかすのであった。

 姑の嫁いびりならぬ、義父のダンナいびりかぁ?

 トホホ。

この人がオトーサン

 今回、オトーサンがサンパウロにやって来た目的は、サンパウロ州主催の「伝統祭り」参加のため(って、娘夫婦に会いたくて来たんじゃないのか!)。この祭りでは、ヨーロッパや中東、東洋の各民族の伝統的な踊りが披露されたりしておりました。もちろん日本文化も、私の第2のふるさとジャーレス市の日系人が中心となって「ボンォドリ(盆踊り)」をアピール。そしてオトーサンはといえば、写真の格好で「お馬の行進」に参列するのが目的。つまり「伝統的田舎っぺぇ」という役であります。

 「効率を求めるなら、車を使えばエエ」

 それがオトーサンの、趣味の世界。

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