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ブラジル国籍の日本人作家 − Ricardo Osamu Ueki さん

2002年6月24日
サンパウロ市在住 美代賢志

 

 

 日曜作家、と呼ぶにはあまりにも本格的というべきか。あるいは趣味性が随所にあふれるプロ作家というべきか。宇江木リカルドさんは、印刷から製本まで、すべて手作りの自費出版を続けている。自費出版といっても原稿を印刷所に渡すのではなく、パソコンからプリントアウトした紙を自ら製本するという出版スタイルである。1925年5月、大阪市生まれの「元日本人」。75歳を迎えてもなお、創作意欲はますます盛んだ。若かりし頃は満州へ、そして戦後、ブラジルに移住した宇江木さんに、ブラジルの魅力と創作の日々を聞いた。

宇江木さん74歳の自画像(左)と、宇江木さん自作の著書「アマゾン挽歌」の表紙

美代 宇江木さんの本名は。

宇江木 昔の名前は現在使用していませんが、漢字で書くと植木修です。作者名は宇江木リカルドを使っています。本名はRICARDO OSAMU UEKIです。これは帰化するときに改名届を出し認可されましたので、身分証明書に記載されています。日本領事館で国籍を1つにしてくれと言われましたので、日本国籍を捨てました。日本の戸籍にあった植木修は抹消されているはずです。だからこの漢字を使っても、私という人物の本質は立ち上がってきません。目論見通り人格の変更に成功したわけです。


美代 宇江木さんは現在、おいくつなのですか。

宇江木 1927年5月生まれですから、2002年5月現在で75歳になりました。


美代 手作りの自費出版という形ですが、このスタイルに至るまでの、何かほかのアイデアはあったのでしょうか。

宇江木 本の製作には、ほかのアイデアはありませんでした。はじめワープロ専用機で「南回帰」という同人誌を出していましたときからの手作りで、それを単行本にするとき本の厚さに見合う厚い表紙にしただけです。京都在住の画家林哲夫さんが送ってくれる「SUMUS」という雑誌が、本のことをいろいろ掲載していて、本つくりの参考になりました。


美代 手作りの自費出版はパソコンなどの進化に伴って実現可能となったと思うのですが、ほかにも執筆活動でこうした機械が宇江木さんに与えた影響というのはありますか。

宇江木 手作りの自費出版は、その通りです。25歳頃、大阪で同人誌「えんとつ」を仲間と出していたとき、ガリ版をガリガリ切りながら、日本語を英文タイプのように打てたらなあ、とぼやいていました。それが、わずか40年足らずで英文タイプ並に作業ができるようになり、感激しました。執筆活動のなかで機械が私に影響を与えたことは、数え切れなくあります。子供のときから勉強嫌いで不良少年でしたから、知らない文字がいっぱいあったし、知らなかった熟語とともに機械から教わったこと、そしてパソコンの膨大なメモリー量と、その編集作業の簡便さ。まさに驚異的です。


美代 本を購入するには、どうすればよいのでしょう。

宇江木 「アマゾン挽歌」を作ったとき、サンパウロ新聞社に、貴社は天皇制擁護の立場を取っておられるが、私は天皇制反対論者です。そういう思想的なことを横において、純粋に文芸作品として紹介してくれませんか、と依頼して、本の紹介をしてもらったのが、はじめてです。それ以前は、友人知人、そしてEメールによる依頼者だけに無料で配布していました。

 前回出した「白い炎」は、ちょっとコロニア社会の様子を見るために、高野書店と、フォノマギ書店に委託販売しました。10冊売りましたが、やはり自己嫌悪に陥ったので、今後は趣味に徹することにして、販売する意思はありません。ということで、友人知人の紹介や、このホームページなどによって、読んでみたいと言って来る人に送るつもりにしています。

※ 宇江木さんは自作品を、世界各地に完全無料で配本されておられます。詳細・注文はこちらを参照ください。


美代 ブラジルに移住されたのは何年でしょうか。また当時は独身だったのでしょうか。それから移住されたきっかけなどについてもお話いただけますでしょうか。

宇江木 ブラジル移住は1974年11月30日で、日本に妻と娘を捨ててきた悪い男です。いまでも罪の意識は背負っています。ブラジルに来る直前まで10年あまりカメラマンを職業にしていましたが、設立したウエキ工芸株式会社をとつぜん放棄して、ブラジル大陸に来ました。

 ウエキ工芸(株)は、広告社からの下請けで、写真撮影と野立て看板の製作と展示会場の飾り付けをやっていました。これを、開店休業のまま、ほったらかして来ました。5年経ったら自動的に廃業にしてくれると聴いたので。いかにも無責任時代ですなあ。

 移住後のブラジルでは、5年間、牧場経営の調査と新規事業の準備をしているうちに、会社の日本側が資金繰りのために、マットグロッソの土地を売却してくれと言って来たので、それを売却するのを最後の仕事にして辞職。その後は無職で放浪です。

 ブラジルへ来た本音は、14歳で「馬賊の歌」に魅せられて満州に渡った心境とまったく同質。広大な大陸志向を継続的に持っていたからです。牧場経営の管理者といううまい話がわずか5年で潰えても、ブラジルに来る機会を得たというだけで、損得勘定はプラスマイナス、ゼロだと考えています。


美代 最初から移住を決意されておられたのですか。

宇江木 そうですね。会社の役員として派遣するという話を断って、移住事業団に行き、工業移民の手続きを取って来伯。最初から、会社の話を全面的に信用していなかったし、ブラジルに帰化するつもりだったから、会社の費用で移住したくなかったのです。牧場経営に夢は描いたけれど、それが実現しなくてもショックを受けなかったのは、会社を利用して日本脱出を企てていたからでもありました。


美代 日々の創作活動は、どのような感じでしょうか。やはりパソコンと向かい合って、ということになるのでしょうか。それとも原稿用紙ですか。

宇江木 創作の下書きはペン書きです。それを1行読んでパソコンで10行ほどに膨らませます。


美代 創作活動において目標とされている作家、あるいは文学賞はありますか?

宇江木 目標にしている作家はありません。強いて言えば、ヘンリー・ミラーやミシェル・ウエルベックに近い作品を創れたらなあ、と考えています。彼らのように性の自由を声高らかに謳歌できないで、エッジをうろうろしている状態ですから。余談になりますが、ヘンリー・ミラーが1898年生まれ、リカルド・ウエキが1927年生まれ、ミシェル・ウエルベックが1958年生まれで、それぞれが30年を隔てた世代ながら、同じ性の自由のために権力との闘争を目的とした創作活動をしているということは、なんという素晴らしい現象かと思いますよ。


美代 日本にはたびたび帰国されておられるのでしょうか。

宇江木 ブラジルに来てから1度も日本に帰ったことはありません。帰るということば自体、なんとなくおかしく感じるようになりました。2世の妻は、一度日本へ観光旅行したいわねえ、と言っていますが、「まあ待っとらんかい、コンクールに入選したら連れて行ったるさかい」と誤魔化しています。素朴な妻を誑かすのはアキマヘンなあ。私の妻は、春団冶の女房みたいに献身的です。


美代 ブラジルの魅力を、日本在住の日本人の方にアピールするとしたら、どのようなものを挙げますか。

宇江木  ブラジルの魅力は、なんと言ってもバカがつくほどの、自然の広大さと、人間の陽気さ、これに尽きるでしょう。歴史の浅い植民地社会のありがたさで、なんでもあり、の懐の深さもまた然り。


美代 題材はやはり、実生活、あるいは身近な日系社会ということになりますか? 今後、取り組んでみたい題材などありましたらお聞かせください。

宇江木 可能な限りブラジルを舞台にした移民物語を書こうと思って、10年習作してきたのは、文学的素養がなかったからですが、やっと人に読んでもらえそうな物ができるようになったので、去年から単行本を作り始めたのです。現在コンピューターに入れてある移民物語「花の碑」は約7000枚20巻ほどになりますので、寿命との競争をしなければならないところに追い込まれ、加筆修正できた分から見切り発車で出版しなければならないでしょう。 


美代 「アマゾン挽歌」の主人公はどことなく、宇江木さんの人生と重なるようにも思えるのですが。自伝的な小説なんでしょうか。私生活でも、主人公同様にモテモテなんですか。

宇江木 「アマゾン挽歌」は自伝小説ではありません。アマゾン移民のひとり某氏の口述と書籍による調査を下敷きにした創作です。

 モテモテだったかと聞かれてモテモテだったと答えると、非常に空威張りしているように取るのが世間。これをそうではないように表現できたらいいのですが。

 不自由して、娼婦を買ったり、女の尻を追っかけたりしたことはありませんが、胎児のときから現在まで、常に不自由しない程度に女性が傍にいてくれました。ブラジルに来てからも、モーションをかけてくる人妻が何人かいましたが、もう女性関係でごじゃごじゃするのが嫌だったから、相手にしませんでした。

 こういう話を、いま世之介風自伝小説にするべく、母の腹に入った昭和のはじめから、ブラジルのことも含めて、時代の流れを背景にして、性描写と庶民生活を低俗にならないよう、可能な限り純文学風に創れたらと野心的に考えながら、いま下書き中です。

 

宇江木リカルドさん著作リスト(注文・入手可能なもののみ)

宇江木さんからのメッセージ

 全世界、どこからの注文でも、無料で配本いたします。ただし、注文いただいてから印刷・製本するという、完全自家製本(手製)のため、到着に日数がかかりますのでご了承ください。
小説 「白い炎」 宇江木リカルド選詩集「吼えろ! 雄鶏」
小説 「アマゾン挽歌」 第一詩集 精神病棟からの招待状
長編小説 「花の碑」 第1巻 第二詩集 引き裂いた風景画
長編小説 「花の碑」 第2巻 第三詩集 反転の幻想
  第四詩集 吼えろ! 雄鶏
  第五詩集 余白に

宇江木さんへのお便り・注文はこちら [osamueki@nethall.com.br
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